海外では、日本では考えられないような感染症が流行していることもあります。その中には命に係わる危険なものもありますし、感染していることを知らずに帰国してしまうと大変なことにもなりかねません。海外旅行で感染症を予防するにはどうしたらいいのか? 今回は感染症のための予防接種の基礎知識のお話をしていきましょう。

予防接種の必要性

感染症には、その病原体に対してかかってしまった後に治療する方法がないものも存在します。 そのために、あらかじめ予防接種で免疫をつけておいて事前に防ぐことが望まれます。自分の命を守るためにも、予防接種はとても重要な対抗手段といえます。厚生労働省検疫所(FORTH)では、およそ1ヶ月以上の長期海外滞在の場合、日本にいる時よりも病気にかかってしまう可能性がとても高くなるとしています。ですが、旅行先の地域や旅行目的によってはたとえ短期でもその危険性は高くなるので、どちらにしても予防接種を受けておく必要はあるといえるでしょう。

予防接種を受ける2つの理由

自分と周囲への二次感染を防ぐため

日本にはない病気に感染する可能性があることから、感染症のリスクを下げて自分の命と二次感染の危険を防ぐために予防接種を受けることが大切です。この時には、それぞれの予防接種について十分に理解した上でどの予防接種を受けるかを決める必要があります。

「予防接種証明書」を要求される地域への旅行

主にアフリカや南米の熱帯地域では、黄熱の「予防接種証明書」の提示が求められることがあります。さらに、黄熱の流行国から入国する際にも提示が必要な場合も。これらの国では、パスポートと共に「予防接種証明書」は必須なものとなるので、予防接種を受けることは必然といえるでしょう。

感染症の種類

ひと口に感染症といってもその種類は様々であり、必要な予防接種も渡航先や滞在期間、渡航形態、自分の年齢や健康状態、予防接種歴によって変わってきます。また、1週間以下の旅行で3つ星以上のホテルに滞在、きれいなレストランでのみ食事をするという場合は安全性は高いといえます。特に、アメリカ、台湾、韓国、ヨーロッパ全土やオーストラリア、ニュージーランドなどはそれほど注意する必要はないかもしれません。とはいえ、用心のために予防接種を受けておくのもいいでしょう。 ただし、“必ずこれが必要”というものは決まっていないので、こればかりは自分で旅行先などを考えて予防接種を受けることが大切になります。以下は、数ある感染症の種類の中でも、多くの国で注意と思われる代表的なものです。これらのものは、短期間で安全性の高い国への海外旅行だとしても、予防接種を受けておくほうが無難ともいえそうです。

A型肝炎

主なエリア

日本・北米・西欧以外の地域

感染ルート

汚染された飲食物から

症状

発熱や倦怠感、嘔吐、黄疸などで、潜伏期間は15日~50日

予防接種

2週間~4週間で2回の接種。さらに半年後に接種すると5年間有効

B型肝炎

主なエリア

日本・北米・西欧以外の地域

感染ルート

保菌者の体液や血液、性行為や外科手術など

症状

倦怠感、黄疸、食欲不振など

予防接種

4週間間隔で2回の接種。さらに20週間~40週間後の1回接種で5年間有効

破傷風

主なエリア

全世界

感染ルート

ケガなどの傷口についた土など

症状

口が開かない、手足の硬直、前身痙攣などで、手当てが遅れると致死率は40%。潜伏期間3日~3週間

予防接種

小児期に三種混合ワクチンで接種している場合もあるので要チェック。接種後10年以上でも追加接種1回で効果あり

狂犬病

主なエリア

アジア・アフリカ地域

感染ルート

哺乳動物に咬まれる、傷口や目、口などの粘膜を舐められる

症状

強い不安感、一時的な錯乱、水を見たり冷たい風で筋肉がけいれん、高熱、マヒ、運動失調などで、その後呼吸障害などが起り死亡。発症すると致死率はほぼ100%

予防接種

初回を0日として、0日、28日、180日後の3回接種。予防接種なしで暴露後接種(咬まれたり舐められたりした後)の場合は、0日、3日、7日、14日、28日、90日後の6回接種。予防接種を受けていて咬まれた場合には追加接種2回~3回が必要

日本脳炎

主なエリア

アジア全土

感染ルート

主に蚊に刺されること

症状

高熱、頭痛、嘔気、嘔吐などの後、意識障害、けいれん、異常行動、筋肉の硬直など

予防接種

定期の予防接種で有効期間3年~4年。期間経過以降、追加接種を推奨

麻疹

主なエリア

ほぼ全世界

感染ルート

空気感染、飛沫感染、接触感染など

症状

発熱、咳、鼻水の風邪と同様の症状、2日~3日熱が続いた後に39°以上の高熱と発疹。潜伏期間約10日

予防接種

1978年から子どもを対象に予防接種を実施。2006年から1歳児と小学校入学前の幼児を対象に2回接種を実施。2008年~2012年の5年間は中学1年生、高校3年生相当の年齢者に2回目のワクチンを接種する制度を導入。2016年時点で26歳以上の場合は各自で予防接種を受けることを推奨

予防接種を受ける場所・期間・費用は?

場所

上記で掲載した種類以外にも数多くの感染症がありますが、海外渡航者向けの検疫所で予防接種を受けることが出来ます。以下に掲載するURLから、主な検疫所や病院の掲載リスト、各地域の感染症情報などが見られるので、旅行前に1度はチェックしてみましょう。電話などでも相談を受けてくれるので、海外旅行先が決まった時点で相談するといいでしょう。

厚生労働省検疫所(FORTH)/検疫所電話相談機関一覧
https://www.forth.go.jp/useful/vaccination05.html

厚生労働省検疫所(FORTH)/国・地域別情報(感染症流行情報など)
https://www.forth.go.jp/destinations/index.html

一般社団法人 日本旅行医学会/海外旅行前予防接種機関リスト
https://jstm.gr.jp/vaccination_agency/

公益財団法人 日本検疫衛生協会/旅行先別予防接種チャート
https://www.kenekieisei.or.jp/chart.html

有効期間

各予防接種の有効期間は、きちんと受けることで数年間は有効になります。そして期間を過ぎてしまったら、再度予防接種を受けることが必要になります。ここで気をつけたいのが予防接種を受ける時期です。種類によっては、数ヵ月間に渡って数回受けることが必要になるので、海外旅行予定日から換算して早めに予防接種の計画を立てることが必要です。

予防接種の費用

基本的に、予防接種を受ける時の費用には健康保険は適用されません。なので自費での支払いになるのですが、その額は医療機関によって変わってきます。費用のだいたいの相場としては、1回につき5千円から1万円くらいで、中にはそれ以上の場合もあります。さらに数回の接種が必要なものも多いので、合計で考えると数万円かかってくることを覚えておきましょう。

地域や目的によって、感染症の種類やかかるリスクの度合いは様々です。安全に、安心して海外旅行をするためには、海外旅行先での感染症の情報をしっかりとチェックして対応することが大切です。上記でも各ページのURLを掲載しましたが、厚生労働省検疫所(FORTH)などで感染症の知識を得ることが出来ます。万全の態勢で海外旅行を楽しみましょう。

厚生労働省検疫所(FORTH)HPトップページ
https://www.forth.go.jp/index.html

一般社団法人 日本旅行医学会HPトップページ
https://jstm.gr.jp/

公益財団法人 日本検疫衛生協会HPトップページ
https://www.kenekieisei.or.jp/about.html