ユーロ誕生の理由と導入までの歴史

欧州連合EUの中で経済通貨同盟加盟国による統一通貨がユーロです。欧州統一通貨のアイデアは1960年代からありました。統一通貨を採用する主な目的は、EU内で外貨取引をするコストとリスクを減らすことであり、通貨市場が乱高下することで欧州経済共同体の経済的合意が果たせなくなる危険性をはらんでいたためです。広い意味では欧州全土で経済成長や雇用の改善、価格の不均衡を無くすことを目的としています。1960年代から1970年代にかけて欧州単一通貨の呼び声が高まった歴史があり、まずは欧州通貨バスケットによるデジタル通貨として1999年にスタートします。
参加国はドイツ、フランス、イタリアなど11カ国と、モナコ、サンマリノ、バチカンの主権国家です。取引初日に高値を付けましたが、対ドルレートが下がり、紙幣と硬貨が導入される2002年までに数回、大幅に下落しています。原因は当時まだ普及していないデジタル通貨であったためとされます。2002年1月より紙幣と硬貨の流通がスタートし、最初は各国通貨と併用され、同時に各国通貨の紙幣と硬貨の回収が行われます。
後にギリシャがユーロを導入し、2002年3月より経済通貨同盟加盟12カ国で唯一の法定通貨となります。為替変動のリスクが無くなり、取引コストもかからないため、加盟国同士でビジネスが活発になりました。2007年までの5年間で加盟国経済圏全体のGDPが上昇し、ユーロ価格も上昇します。後にスロヴェニア、キプロス、マルタも加盟し、2008年には加盟国が15カ国となります。

ユーロ導入後に起きた負債危機

2007年に起きたアメリカのサブプライム住宅ローン破綻に端を発し、2008年から2014年までユーロ経済圏は幾度かの危機に見舞われた歴史があります。アメリカの不況により世界経済に影響が及び、ヨーロッパでは救済措置や負債の返済が必要になる銀行が出てきました。流動性が低い経済圏のため、財政を再建できず、2008年後半の下落は最大幅となります。その後、ギリシャの負債水準が基準を超えていたことが発覚したり、まだ財政基盤が弱い中、発展中のポルトガルやアイルランドなど各国が極端な財政の改善を行ったりしたために、欧州経済圏の信用が崩れました。
金融投資家たちは影響を受ける国の債権を売り、他の外貨に投資するようになり、2010年にユーロはさらに下落幅を更新しました。欧州中央銀行はどのような対応策を講じても、欧州経済全体に影響を与えることを嫌い、迅速な対応を取ることはありませんでした。経済状態が好調な国は自国の負債水準や税率を上げないために、救済措置の資金を提供することをためらいました。
世界銀行や国際通貨基金などが欧州の負債危機に対処するため、数千億ユーロの資金を提供し、ギリシャやスペインなど特定の国に厳格な緊縮策を要求しました。これらの国の経済成長は損なわれましたが、欧州経済圏の状況は改善していきます。ただし、金融投資家たちの信用を取り戻すことはできませんでした。それからも金利調整や政治不安のたびに大きな価格変動が起きましたが、ユーロ加盟国は増え続け、エストニアやラトビア、リトアニアなども法定通貨として導入しています。

ユーロの現在と今後の見通し

欧州では現在、19カ国がユーロを単一通貨として導入しています。世界では他にも複数の国で同じ通貨を使用している中米カリブ地域やアフリカ諸国の例がありますが、ここまで参加国数が多い通貨はありません。国を超えてさまざまな人種や民族に使用される通貨なので、紙幣には特定の人物の肖像を採用せず、ギリシャやローマ時代からこれまでの、それぞれの時代を象徴する歴史的建造物の絵を使用しています。紙幣の表面には窓、裏面には橋のデザインが描かれ、加盟国同士のオープンな相互交流を表現しているとされます。
一方で硬貨の方は表面は同じデザインですが、裏面は国ごとに違うデザインを採用し、歴史や文化を大事にした国の特徴が分かるようになっています。1999年に誕生してから、厳しい批判にさらされたユーロですが、当初の予測を覆して長期間継続しています。現在では過去20年の中でもっとも支持されているという世論調査の結果があります。また、大きな債務に苦しんでいる加盟国政府も、借入コストが低下することで負担の軽減に寄与しています。
さらに当初は支援に消極的だった欧州中央銀行も周期的に起きる負債危機に対し、柔軟で画期的な対応をするようになっています。2010年の欧州委員会の世論調査では、自国に対するユーロの好感度は全体の半数程度でしたが、2018年の加盟国全体の世論調査では6割を超え、欧州全体のためになるとの回答は7割を超えています。この結果は緊縮政策で厳しい経済下のギリシャや、債務残高が高いイタリアでも同様の回答となっています。ユーロは世界で使用される外貨ではドルには遠く及びませんが、決済通貨はドルに迫っています。